第6章 やるべきこと



 一年生は、徐々に部活へと溶け込んでいった。

まず、三年生によってロボットの基礎となるCPUやモータードライブボードなどの説明があった。CPUとは、ロボットの『脳』のようなもので、プログラムを実行し、ロボット全体を制御する役割をもっている。モータードライブボードとは、いわばロボットの『足』である。CPUの命令を受け取り、直接モーターを制御する。これがないと、ロボットはできないのである。それだけ大事なパーツなので、取り扱いも難しかった。

とにかく、回路基盤なので、裏の配線部分に金属片や異物が入った場合、それだけでショートを起こし壊れてしまう。よって、部活内のCPUの裏には『ブルーシート』と呼ばれる異物が入らないようにするクッションが裏面部分に貼られていた。

次に気をつけるべきは、流す電流。CPUに流していい電流の大きさは決められているため、それを超えた電流を流すとやはりショートしてしまう。さらにこのCPUは5000円するので余計大切に扱わなければならない。この日も、上級生による説明が行われていた。

「いいか、このブルーシートがないとCPUは一発で死んじまう。たとえるなら、ジェームズ・ボンドに黄金銃を撃つぐらいだな。」

こう冗談交じりで説明しているのは、三年・鈴木清太である。清太は短髪で背が高く、優しく、おもしろい人気の先輩だった。

「まあ、シートを貼らずにやってる先輩もいるけどな。なあ、平石。」

すると、机の向こう側でもくもくと作業をしているメガネの気の弱そうな男子が振り向いた。

「僕ですか?」

「だってお前貼ってないじゃん。いつ死んでも知らんぞ。」

「分かりましたよ。今度貼ります。」

そして、清太は視線を周りを囲んでいる一年生へと戻した。

「まあ、俺からの説明はこれくらいだ。後、分からないことがあったら近くの先輩に聞くように。」

その後、一年生はまたもや説明を受けた。今度は部活のルールについての説明である。ルールについては入部当初に先生から聞いていたが、今回は部長からその詳細を聞かされていた。

入部してから説明、説明、説明で一年生は疲れきっていた。しかし、その説明の繰り返しが同時に一年生にとって大事なことでもあった。人間は一度聞いただけでは完全には覚え切れない。逆に、繰り返し聞くことによって脳に覚えこませることができるのである。

そう考えて青島に説明させたのは紛れも無く西園寺だった。一年生に期待しているからこそ厳しくする。それが西園寺の考えであった。さらに、一年生に説明したことをノートにとらせたのも、たとえ説明されたことを忘れたとしてもノートを捲れば分かるという西園寺ならではのアイデアだった。これも、一年生に期待を寄せているからである。

週明けの月曜日、西園寺は急に一年生を集めた。どうも、今後のやるべきことを発表するらしい。さっそく、一年生は前の長机に集まった。少しして、西園寺が現れた。両手には、何か重そうなダンボールを抱えている。すると、後ろのほうで髪が逆立っているカッコいい系の二年生が口を開いた。

「でたよ、カンパン。久しぶりだな。まだあったんだ。」

「またもらったんだよ。」

そう西園寺は答えた。一方、一年生はカンパンと聞いて顔を見合わせた。佐藤も黒羽と離していた。

「カンパンって、まさか俺たちに食べろっていうんじゃないだろうな?」

「さあねぇ。でも、一度は食べてみたいなぁ。」

すると、西園寺はそのダンボールを長机に置いた。そうとう重いらしく、ドサッという音と振動がこちらにまで伝わってきた。西園寺はダンボールを開け、中身を確認した後、一年生一人ずつに配った。

「いきなりなんですが、カンパンのおいしい食べ方について論文をかいてもらいます。」

この言葉に一年生は驚いた。まだ入部したてなのに『論文』である。書き方も知らなければ、意味も分からない。

「ということで、今から論文の書き方を説明します。ノートを出して。」

一年生は待ってましたといわんばかりにノートを取り出した。皆がノートを出したのを見届けた後、西園寺は説明を始めた。

「まず、論文自体について説明します。論文とは、研究の成果や物事を訴えるときにかかれます。ですから、文章の書き方にもいろいろな決まりがあるわけです。」

すると、西園寺はチョークで黒板に縦長の長方形を二つ書いた。どうやら、紙を表しているらしい。その、左側の長方形の一番上に小さくカタカナで『タイトル』とかいた。

「まず、ここにタイトル。大きさは20から24くらい。その下に、学校名、科名、氏名を書く。」

西園寺は再び『タイトル』の下に学校名・科名・氏名と書き足した。その後も、詳しい説明が続いた。

名前の後は、『概要』といって、大まかなあらすじを記す。その下から『1、はじめに』から始まり、『2、仕様』、『3、実験内容』、『4、考察』、『5、感想』、そして最後に『6、謝辞』で終わりである。

そのほかにも、数字は『Times New Roman』という書体でなければいけない、表にも番号を振らなければならない、などいろいろな制約が説明された。

一年生は、その間休まずにノートをとり続けた。それだけで、この日の部活は終わってしまった。

この日も、佐藤は黒羽と帰っていた。すると、学校近くの交差点で自分たちとまったく同じ方向に向かう生徒がいた。藤井である。

そのときはまだ話しかけなかったが、この偶然は後々大きな要因になるとはまだ藤井も佐藤も、黒羽も思わなかった。



第6章 END




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