六月に入り、クラスは徐々にまとまりつつあった。そんなある日のこと。佐藤らはいつものメンバーに加え40番・吉田一輝、31番・早谷川智則と一緒に生活することが多くなった。吉田はいつも周りにさわやかに振る舞い、好印象だった。早谷川はいつもタオルを持ち歩き、テンションを上げてくれるちょっと大柄な好青年だった。一方、藤井は夏木と話す日々が多くなった。
この日の数学の授業。教師は授業のスピードが早くて有名な和久島先生だった。そのウェーブがかかった髪は、窓から入る風に揺れている。その姿は、教師の中でも一様に目立っていた。そして、スーツのボタンをはずしていかにも涼しげにしている和久島の口から出た言葉は、
「この問題は、夏木。黒板に出てやってください。」
というものだった。しかし、夏木は焦った。問題が解けなかった。いつもなら隣の席にいる藤井だが、今日に限って欠席していた。しょうがないので、前の男子の肩をたたく。そう、その前の男子とは誰であろう、佐藤と特別仲がいい25番・仲間靖弘だったのである。仲間は寮生活という特別な事情を持ちながらも、教室ではいたって明るく振舞っていた。誰とでも仲良くできる。それが彼のいいところであった。
仲間が振り向く。夏木はちょっと怯えた感じで事の用件をしゃべった。
「ちょっとこの問題教えてください。」
ひどく緊張していた。なにせ、まだ一度も話したことが無いのだから。しかし、仲間は案外口調を柔らかにして答えた。
「ああ、これな。これは因数分解の公式じゃ解けないから、解の公式を使うんだよ。」
「ありがとうございます。」
「敬語はよせよ。かたぐるしい。」
そういって、仲間はまた前を向いた。
この一件により夏木は仲間と親しくなり、さらに佐藤らとも仲良くなった。友人は、思いがけないことでできるものである。出会いは大切であり、友人もまた大切である。その出会いにより、人生が変わるかもしれないのだから。
次の日、登校した藤井は異様な光景を目にした。夏木が見知らぬ集団に混じっている。このころの友人関係は変化が激しいのである。
しょうがなく、藤井は夏木を目当てにその集団に混じっていった。この時、ついに藤井は佐藤と真の「出会い」をした。そう、ここで佐藤は後々部活内で強力な味方をつけたことになり、藤井は同じ情報科としての目線から「部活」というものを見ることが出来る大切な友を持ったのである。
そして昼休み。佐藤たちはいつものようにトランプをしていた。もちろん、やるゲームは『大富豪』である。しかし、皆が皆できるとは限らないため、惜しくも入れなかった藤井と夏木、そして仲間は三人で話していた。トランプ組は、盛り上がる一方だった。
「はい、2のダブル〜。そしてあがり。」
吉田の声が弾む。
「あえての8切りかな。」
橘が攻め立てる。
「そして、2。」
橘は手札があと一枚。これで誰も出さなければ上がってしまう。
「はい、ジョーカー。」
しかし、伊東がジョーカーを出し、橘があがるのを防いだ。
「で、あがり〜♪」
橘は、この時点で戦意喪失した。なにせ、最後のカードは3なのだから。その後、早谷川がトリプルで上がり、橘は負けてしまった。
「3じゃ勝てねえよ〜」
こうして、昼休みは矢の如く過ぎ去っていった。
そして、四時限目の国語が始まった。担任は優しくて生徒に人気な伊集院先生だった。
「はい、じゃあこの前の漢字テストを返しますよ。わりと良くできてましたよ。」
いつもこんな感じだった。
伊集院が作るテストは簡単で、毎回クラス平均70点越えという数値を叩き出していた。この点でも、生徒に人気であった。佐藤は、国語が好きだった。
別にこの先生の影響というわけでもなく、昔からだった。中3の時には、小説をかいて担任に見せていたほどだ。よって、国語の授業は楽しかった。それは、橘も同じであった。いや、このクラスの何人が国語が得意であろうか。いや、『得意』という表記は誤っている。得意であろうが無かろうが、ここで重要なのは『出来る』か『出来ないか』である。いくら得意であっても、『その人の実力から見て』の得意であって、『出来る』か『出来ない』かは別である。
そして、この日もまた、過ぎ去っていくのである。
第7章 END