この「異例」な事態によって、日本政府はかつてないほどの厳戒態勢になった。そして南海大地震から3日後、国会議事堂で災害対策会議が開かれた。その会議に、新日新聞は取材を許された。そして、その会議にはあの谷田部も参加していた。まず、現総理・真田芳郎があいさつした。
「今回は、ご集まりいただきありがとうございます。さて、近日続けてマグニチュード7クラスの大地震が起きました。ついてはその今後の経過と対策を話していきたいと思う次第でございます。」
全員が立ち、礼をした。まずは、平石国土交通大臣だった。
「まずは、被害状況です。最初の、鹿児島県沖大地震ですが、被害はそれほど大きくはなく、倒壊家屋は5000軒ほどで、死者も60名程度です。後日の南海大地震はまだ被害は把握できていません。」
そのまま、平石は座った。
「ありがとうございます。次は、中京大学、字梨教授、よろしくおねがいします。」
今度は、字梨と呼ばれた背の低いメガネをかけた老人が立ち上がった。
「私たちは、今回の地震が同時期に起きたのは単なる偶然と考えます。この2つの地域を結ぶ断層はありませんし、震源が全く別のところということからです。よって、これ以上大きな地震が起こることはまずないと考えていいでしょう。」
これを聞き、官僚たちはほっとした表情になっていた。次は、皮肉にもあの谷田部だった。
「字梨教授、ありがとうございます。次は、東都大学地震研究所・谷田部博士、お願いします。」
すると、谷田部はすぐに立った。よほど、自分の説に自信があるらしい。
「今回は、私はまだ地震はあると考えます。それも、これまで以上の大地震が。」
この発言により、会議出席者全員の注目を集めたのは言うまでもない。
「まず、今回の二つの地震、震源はまったく違うものの、通常の地震とは異なる点があります。よって、これはまだ解明されていない、地中深くにある巨大断層の引き起こしている『大連鎖地震』と私は考えます。」
他の官僚たちは信じられない、という目つきで谷田部を見ていた。しかし、その静寂を破った者がいた。真田総理だった。
「なるほど。それでは、その見解でいきますと、次はどこで地震が起きますかね?」
完全に馬鹿にされていた。しかし、谷田部はいたって冷静に答えた。
「今度は、おそらく近畿地方で起こる可能性があります。マグニチュードは8を超えます。結果、和歌山、三重、奈良、大阪では大きな被害を被ります。」
それを聞いた真田総理は、にやりと笑い、首を振った。まるっきり、信じていない様子だ。その後も、会議は延々と続いた。このあと、亮は真田総理を追いかけ、質問した。
「すいません、総理。谷田部博士の発言をどう思いますか?」
やはり、総理はにやりと笑った。
「彼には彼なりの考えがある。私はそれを参考にするまでだよ。」
まだ信じきっていないらしい。亮は、さらに追い討ちをかけた。
「もし、その説が正しかったとしたら・・・。」
「ははは。君は面白いことを言う。」
そのまま、総理は部屋へ入っていってしまった。結局、追い討ちは空振りに終わってしまった。
亮は、すぐに会社に帰った。予想通り、桜木につかまった。
「どうだったの、会議。」
「ああ、谷田部博士が自分の説を主張したんだけど、総理は全然信じなくてさ。」
「そうね。あんな説、信じろっていう方が難しいわ。」
「だが、現に地震は起こっている。俺は、最初から信じてたけど。」
「じゃあ、近畿に行って先回りすれば?」
すると、いきなり、会話に能勢が入ってきた。
「君たちは、いったい何の話をしているのかね?」
桜木が先に答えた。
「私たち、ずっと谷田部博士の説について話していたんです。」
「そうか。あのことで・・・。」
すると、伊戸田が急に口を開いた。
「能勢さんはどう思いますか?この説を。」
能勢は、少し迷った表情をしてこう答えた。
「そうだねぇ、僕は、あえて否定はしないよ。しかし、肯定もしない。こればかりは、証拠がないとわからないからね。」
「それでは、僕を近畿に行かせてください!」
いきなりだった。桜木と能勢は騒然としていた。
「い、いきなり何をいいだすんだね。それに、なんで近畿なんだい?」
「このまま博士の予測どおりいくと、次の地震は近畿地方で起こることになっているんです!」
能勢は、顔をしかめてこういった。
「なにも、近畿地方で起こるという保障なんてないんだろう?それに、仮に起こったとしても君が危険なんじゃ・・・。それに、行ってなんの意味がある?」
「そうよ。編集長の言うとおりよ。」
桜木にも止められた。しかし、自分は行かなければならない。その目で確かめたい。真実を。
「・・・全責任は僕が取ります。お願いです。行かしてください。」
「しょうがないな。なら、個人旅行という名目なら怪しまれんだろう。」
この言葉を聞くなり、伊戸田は会社を飛び出した。目指すは、関西主要都市・大阪。車で向かう。明日には、大阪にいるだろう。その前に、よりたいところがあった。もちろん、長谷部博士のもとである。車を飛ばし、東都大学へと入った。入るのは、何回目であろうか。そんなことは気にしない。今は、時間との勝負である。
「長谷部博士!」
突然の訪問に、博士はすこし戸惑っていた。
「いきなりですね。今度は、何のようですか?」
「博士・・・次の地震はいつ起きますか?」
「すごい質問ですね。じゃあ、解説しましょうか。」
すると、博士はまた黒板を持ってきた。
「いいですか、私は先日、大断層があると言いました。これは、変わっていません。もともと、南海・東南海・東海は『南海トラフ』というものでつながっています。南端は四国の南西、北端は駿河湾です。これに、フィリピン海プレートがぶつかり、大地震を発生させます。これが、昔から連鎖地震とよばれるものです。しかし、今回は断層がもっと北にある。九州・桜島から始まり、高知、近畿の中央部をとおり、東京湾にいたる。これが、いきなり活動し始めたのです。事によっては、これが南海トラフの連鎖地震発生の引き金にもなりかねないのです。その場合、大きな地震が二回、そして余震が来るわけですから、間違いなく太平洋側は壊滅します。そうなると、大津波も発生するでしょう。」
長い話にうんざりしたのか、いきなり伊戸田が言った。
「で、何が言いたいんです?」
「要するに、今近畿地方に行くのは自殺行為なんです。」
「そんなことは分かってます。」
「いや、あなたは分かっていない。次の地震は鹿児島の地震の比じゃなんです。いくら鹿児島の地震を生き延びたとしても、今回の地震はその数十倍の威力を持っている。一筋縄ではいきませんよ。」
そんなことはとうに分かっている。最悪の事態になってもそれはしょうがない。しかし、もう二度とあんな思いはしたくない。いや、他の人にしてもらいたくない。自分は、そいういう使命をもって生まれてきたのかもいれない。ひょっとしたら父が自分だけにくれた生きがいなのかもしれない。ならば、自分はそれを実行するまでだ。
「僕は・・・行きます。」
「そうか。どうしても行くのか。ならば、雲を見なさい。異変に気づいたら、すぐにこちらに連絡しなさい。」
すると、博士は紙にペンでなにやら電話番号らしきものを走り書きした。それを、伊戸田は受け取り、外に止めてある車へと走った。
夜風が、不気味なほど涼しかった。
第4章 国家激震 END